出版印刷業界の一員として、写植の日常の現場で何が起きているのか、何を追求していったらいいのかを模索し、ネットワークを広げていくための不定期コラムです。
みなさまのご意見、ご感想をお寄せください。
写植関連業に携わっている人に必要なこと
日常の組版業務が忙しくコラムをなかなか更新できなくてすみません。
しばらくコラムを更新していない間にNewCIDフォントの発表、Windows DTPのにわかな盛り上がりなどがあったりしましたが、今回はわりと身近に起こっていることから話を広げてみたいと思います。
最近、新しい仕事や工程が急激に増えてきたために、全体の流れがわかりづらくなってきました。そこで、次の工程へ渡す内容や進め方を合理化するために、社長の方針で、専門外の新しい工程の仕事もするよう勧められています。その工程を知ることによって得た知識を活用し、現工程や全工程の合理化を全社あげて進めていこうという意図です。
そんな日常のなかから起こったことを少しばかり書いてみます。
●デジタル面付け体験記
写研では「IMERGE」というシステムのなかにデジタル面付け処理をおこなう機能があります。
要は従来手作業でやっていた面付け処理をコンピュータでやってしまおうというわけです。MacDTPの世界でも面付けはもう当たり前のことになっているようですが、写研の面付けシステムも当然ですが機能が満載されています。
つい最近、ある小冊子を初校から責了までのオペレーティングに加え、面付けまですべて担当することになりました。
GRAFやSAMPRAS-Cによる組み上げやオペレーティングに関しては、何の迷いもなくすらすらとできるのですが、こと面付けに関しては、一オペレータとしてその工程をあまり意識することもなく過ごしてきたので、知らないことばかりです。
社内の面付け第一人者に一から聞きながら、マニュアル片手になんとかフイルム出しまで事なきを得て納品できたのですが、その過程では自分の無知さに情けなくなったり、新しい発見をしたりと、貴重な体験をさせてもらいました。
私が個人的にミニコミ誌でやっているのは表紙回りの4面付け程度で面付けとはとても言えません。8面付け、16面付け、32面付けについても、青焼き訂正が入ってきたときに見慣れていますから、どういう順番でページが配置されているかもよくわかります。
ただ、いざ一から面付けをするとなると、面付けにもいろんな種類があること、印刷・製本に使うための背標・背丁、本丁・仮丁、カンバン・色玉など、ふだん意識していないことまで正確な知識が要求されます。
従来、手作業で貼っていた工程を熟知していれば、こんなことではあたふたしないのです。当社で手動面付け(手貼り)をすることはごくまれで、印画紙を納品した時点で私たち写植オペレータの仕事もおしまいだったのです。
ページそのものに加え、どこに何をどう置くかというのはすでにパターン化されているので、それを流用しながら個々の事例に合わせていけば、実のところはデジタル面付けはそれほど難しくありません。
本番のフイルム出力の前に、A3などの普通紙に縮小出力(面付けされた状態での出力)も可能ですから、フイルムを出してから失敗することはまずありません。
ですから実際のところはそれほど戸惑う必要はなかったのですが、印刷会社さんにはそれぞれ紙を無駄にしないための独特の面付け方法がありまして、それに対応するのは意外に難しいとのこと。PostScriptベースの面付けソフトの機能のことがよくわからないのでなんともいえないのですが、大手の印刷会社さんではまだできない複雑なデジタル面付けを当社ではすでにやっているのだそうです。
●DTPの知識
美しい日本語組版と高品位な文字をということで写研の文字とシステムを当社は選びました。新しい技術や機材を投入してお客さまに喜ばれるサービスを追及していきました。おかげさまで業績も伸び、現在でも新規の仕事が入ってきています。
それはとてもありがたいことで、一社員、一オペレータとしても活躍の場がより広くなりうれしく思います。いっぽうで今までは写研の丁寧なサポートとクローズドなシステムのなかにいたために、あえて知らなくても過ごせていたことが、製版部門も受け持つことになって対応せざるを得なくなったことがたくさんでてきました。
ひとつは文字だけでなく画像や線画を扱うようになったことで製版の知識やノウハウが必要になってきたこと。もうひとつはDTPのラインで作られたデータを写研のシステムに取りこんでいくためのDTPの知識やOS、アプリケーションの習熟が必要となってきたことです。
両者とも大規模な生産ラインを持つ大手印刷会社や、フルDTPで製版までおこなっている出版社やデザイン事務所であれば、当の昔に経験したことですので、その先人たちに相談することで解決することがほとんどですから業務上は問題ありません。
ただ、現場に携わるものとして各人がMacintoshのこと、画像ファイルの形式、アプリケーションの扱い方を、営業マンレベルぐらいなことは知っておかなければいけないのではないかと思うことがあります。
残念ながら私はMacintoshと縁がなかったので、趣味でやっているミニコミ誌もWindowsのマシンでWindowsのレイアウトソフトでDTPをしています。その経験から、私のところに入力や変換に関してときに相談されることがあります。それはうれしいことですが、すべての問題を私ひとりで解決できるわけではありません。解決できない事態に直面すること----それは実に歯がゆいことなのです。
●それでは何が必要なのか
以上、最近私のまわりに起こったささいな出来事を、恥ずかしながらふたつ紹介させていただきました。
事例は別にしても、それぞれの現場で似たようなことが日常的に起きているのではないかと思います。そんなときにどう乗りきってノウハウをどう蓄積していくのかが実際の現場で求められているのでしょう。
「DTPはワークフローである」とよく言われます。DTPですとすべての工程を製作サイドが握り、監視し、理解し、操作しなければならないのでワークフローの構築がいちばん大切とされることは言うまでもありません。
組版・製版業者についても考え方は同じでしょう。ただ、ひとりですべての工程をやっていては生産効率が悪いので実際には工程を分業し、人員もそのワークフローに応じて配置されます。
従来ですと、それぞれの工程にはスペシャリストがいて、職人技と呼ばれるような知識と技術、センスをそれぞれの担当者が持っていないと仕事が成り立ちませんでした。ところがDTPの隆盛による印刷工程のオープン化と技術革新によって、スペシャリストが活躍できる場所は少なくなり、組版や製版がルーズになりつつありますが、これも時代の流れなので誰も食い止めることはできないでしょう。
この状況に警句を述べていても仕方がないので、私たちが今なすべきことを考えてみましょう。私が思うに、デジタルパブリッシング全盛の時代にいちばん知っておくべきことは、アナログ時代の工程なのではないかと思います。
アナログ時代の製版や手動写植機やコーディングによる電算写植を経験してきた人ならば、最終生成物のイメージとそれに至る作業を明確に把握していますから、それをデジタルでやるためにはどうしたらいいかを考え、機械を操作します。
ところが、アナログで培われた知識やノウハウなしにデジタルに入った人は、発想が違います。過去の遺産にとらわれることなく、奇抜でユニークなものができる可能性もありますが、ハードやソフトの機能に表現が制約されてしまわないとも限りません。
どちらがいいか悪いかをここで論じているわけではありません。たとえば私が日本語組版にうるさくて、市販されている一般的なレイアウトソフトの組版が気に入らないのは、写植の組版の美しさにとらわれているわけで、それがいいか悪いかはなんともいえません。同時に、画像の処理に関してはPhotoshopで扱える処理以上のものの良し悪しがわからないのが自分では情けないと思ったりしますが、一概にこれが憂慮すべき事態とはいえなくなってきているのです。
●まとめてみます
話がとりとめない方向にいってしまったので、原点に戻ってまとめてみます。
今回挙げたふたつの経験から感じたこと、すなわち写植関連業に携わる人にとって何が必要とされているのかを箇条書きしてみました。
- 従来の印刷物生成のアナログの過程を知ること
- PostScriptとMacintoshに支えられたDTPのワークフローを知ること
- 上記のワークフローのなかで使われるアプリケーションをひととおり扱うことができること
- Windows DTPで今なにが起こっているかの現状分析と情報交換
- 写植業者が生き残る道
まあこんなところではないかと思います。
オペレータは、専門分野でのワークフローの日常的な改良のほかに、専門外の分野では営業マンや編集者レベルの知識が必要となってくるでしょう。
まじめに考えるとこういうことになります。が、現実には日常業務の忙しさに追われてなかなか切りくずしていけないかもしれません(苦笑)。
●最後に
最後は泣きが入ってしまいましたが、写植の世界で生き残るというのはやはり並大抵のことではないのかもしれません。かといって写植はなくなるわけでもないですし、書籍・学参もの・マンガの世界では写研の文字が堂々と生き抜いています。そして以前と比べてはるかに生産性が向上していますし、各工程でのミスの検出能力・ワークフローの共有化はMacのラインよりも優れていると聞いています。
いったんDTPの世界に入ってしまうと、なかなか前の状態には戻れない心情もよくわかります。写研の美しい文字がDTPで使えないと嘆いているデザイナーがいることも存じています。ここで私が何か言うのもおこがましいことですが、写研のプリプレスシステムはクローズドな形ながらフルデジタル化されています。デザイナーのプランを実現する高度なオペレーティング技術も取り揃えておりますので、ご縁がありましたら写研の文字や当社のシステムをご利用くだされば幸いです。
さて次回は……まったく未定です。更新予定もわかりませんが、できる限り続けたいと思っています。ではまたそのときまで。
(1999/04/16発表)
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