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写植の現場から
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 出版印刷業界の一員として、写植の日常の現場で何が起きているのか、何を追求していったらいいのかを模索し、ネットワークを広げていくための不定期コラムです。
 みなさまのご意見、ご感想をお寄せください。

Web訪問者の周辺と日本語組版の乱れ

(株) Station S 出版企画部 岡田隆志

●訪問御礼

 Station S 出版企画部の岡田です。またお会いできて光栄です。
 10月12日にサイトをオープンした直後から、たくさんの方に訪問いただき、また多くの方にアンケートにご協力くださって、まことにありがとうございました。
 今回はまず、アンケートにご協力いただいた方々の声を紹介していくところから始めていきたいと思います。

 最初に、短いメッセージながらWeb担当者としてうれしかったことがあります。「軽くて見やすいページ」と複数の方からお褒めいただきました。Webサイトを構成していくうえで注意して作ったことが報われた気がして大変うれしかったです。どうもありがとうございます。
 アンケートに答えてくださる方の職業も居住地もさまざまで、インターネットの醍醐味を肌で感じました。また、訪問者数に対するアンケート回答率が非常に高く、写研のフォントやプリプレスシステムに興味を持っている方の多さに驚いています。

 Webというメディアでのアンケートのせいもあるかもしれませんが、回答くださった方々のDTP化が思った以上に進行していて、その中で写植がどう生き残っていけばいいかという同業者の切実な声もあったりと、実に内容の濃いアンケートになりました。
 今後の仕事およびサイト運営に有効に活用させていただきます。
 ご協力ありがとうございました。

●写植にこだわるデザイナーや編集者の声

 さて、当社および写植プリプレスシステムに興味を持って訪問してくださった方のなかには、当然のことながら編集やデザインに携わっている方もたくさんいらっしゃいました。DTP化もかなり進んでいるようなのですが、アンケートの最後の感想のところに記入してある内容から察するに、必ずしも現状の印刷物とフォント環境には満足されていないようです。

 具体的にあげますと、「デジタル化が進んだにもかかわらず写研文字の美しさが今でも忘れられない。できればそのフォントをMacやWindowsで使えるようにならないだろうか」といった要望です。

 残念ながら現状では写研文字のPostScriptフォント化、TrueTypeフォント化の予定はないようです。よって、写研の文字や組版を利用したい場合には、そのシステムを構築している業者に依頼するしかありません。

 これは出版業界全体のDTP化の流れから見れば、やや掛け離れたポジションになっていることは否めませんが、品質や速さのことを考えると一概にPostScriptが優勢とは決められないように感じます。もちろん数のうえではPostScriptによるDTP、またWindows DTPが占める割合が増えてくることは間違いないでしょうが、写研プリプレスを利用した高度な組版や集版がなくなることはまずないと実感しつつ仕事をしています。

●日本語組版の美しさとは何か

 「日本語組版の美しさとは何か」という問いに答えるためには組版に関する専門的知識と、経験による裏付けが必要となります。テーマがちょっと大きすぎて私には荷が重いので、写植組版とMacDTPとの比較においてという、ごく狭い分野に絞って考えさせていただきます。

 写植の文字組版をごく日常的に見ている編集者やオペレータは、PostScriptによる文字組版を見て「読みづらい」と思うことがよくあります。この「読みづらい」の本質的理由はどこにあるのかといいますと、

  1. フォントのデザインが美しくない
  2. 長年出版界や電算写植で培われた基本的組版ルールを逸脱している
  3. 文章が情報として頭の中に入ってこない

 以上の3つの要素が絡みあって「読みづらく」感じるのではないかと思うのです。

 (1)のフォントのデザインに関しては慣れの問題も大きな原因と考えられるでしょう。将来、写研の文字に匹敵するような美しいPSフォント、TrueTypeフォントが現れるでしょうし、もう出ているかもしれません。もちろん、写植であれ、PSフォントであれ、TrueTypeフォントであれ、フォントの特性を活かした組み方が浸透して、いい意味で「枯れて」きたフォントというのは実に味わい深いものとなるのですが、その域に達しているPSフォントは意外に少ないものです。

 (2)の組版ルールについては、最近ではだいぶ落ち着いてきたようですが、DTPが出版界に浸透していくまでにはずいぶんひどい組版がまかり通っていました。それを嘆いたデザイナーや編集者、写植オペレータは星の数ほどいたはずです(~_~;)。

●日本語組版はなぜ乱れてしまったか

 さすがに現在では「Macで作ったから」という理由だけで一刀両断に「読みづらい」と言う人は時代遅れと呼ばれるでしょうが、一方で、長年出版界で培われた美しい日本語組版を肌で感じている人には、その厳格な美しさゆえに、ルーズな組版、安易な組版が許せないと思うことが多々あるのです。

 最先端なはずのDTP専門誌やコンピュータ雑誌のなかには正直いってお粗末なDTPをしているものもよく見受けられますし、縦組みになると、急にフォントの選び方、字送り行送り、行頭行末と約物(※)の処理が中途半端でバランスが悪くなっていることもよくあります。(※「やくもの」と読み、句読点や括弧類を指す)

 「そんなことまで気にしなくても……」という方が大多数になればそれは仕方ないとあきらめることになるかもしれません。しかし、目の肥えたデザイナー・編集者は現在の「日本語組版の乱れ」に大いに警鐘を鳴らしています。
 私たち写植の現場でも、統一が取れていなかったり、ルールをきっちりと定めていない指定が入ってきて、オペレーティングする立場として、どう処理していいか困る場面が増えてきました。「細かいところは見栄えよく」という、今までにはありえなかった指定(?)が入るようになったのも時代の流れなのでしょうか……。

 レイアウトソフトの改良やノウハウの蓄積によって、多少なりともまともな組版が増えることを期待したいところですが、それを実現する側の人たちの経験、知識、美的レベルの平均が急速に下がってきているような気がして、文字や本を愛するひとりとして残念に思います。

 組版に関しては、『Professional DTP』(工学社)1998年4月号特集「日本語の文字組版」がよくまとまっています。
 その原稿を書いていらっしゃる前田年昭さんが世話人をなさっている「日本語の文字と組版を考える会」のWebページも参考になるでしょう。ぜひ一度ごらんになってみてください。

 少しだけ脱線します。98年10月に池袋のサンシャインシティで行われたSEYBOLD SEMINARS TOKYO'98の「JPC特別セミナー 〜デジタル・パブリッシングの現状分析と未来を考える!〜」の第1部バトルトークを聴講してきたのですが、そこでフォント・組版部会のチーフディレクターの柴田忠男さんの発言がとても印象に残っています。

「レイアウトソフトの日本語組版機能についてベンダーに注文は?」
「こっちはこっちでやっていきますから、何もありません」
 この皮肉な問答は、レイアウトソフトの日本語組版にいかに不備があるのか、また、それにいかに絶望してきたかを如実に物語っているように私には思えたのですがいかがなものでしょう。
 このバトルトークについてはJPCのページに掲載されているのでそちらも併せてお読みになると楽しめるでしょう。

●文章の「可読性」とフォント

 話を戻します。
 写植を使っていない文字組版が読みづらい第三の理由として、「文章が情報として頭の中に入ってこない」と記しました。

 本来ならば本を読むときに、書体やデザイン、組版のことなど考える必要などないのです。そういう意識をさせないで、文章の内容そのものを楽しんでもらうことこそがエディトリアルデザイナーや編集者の腕の見せどころであり、読者にとっての読書の醍醐味といえましょう。

 文庫本を例にあげますと、現在出版されている文庫本のほとんどに写植文字が使われていますが、これがPSフォントで、代表的なDTPソフトでまったく同じような組版をしようとすると、相当なノウハウと手間がかかります。日本語の縦組みに弱いことは実際に使っているみなさんのほうがおわかりかと存じます。
 縦組みの明朝系で「なんか読みづらい」というか「頭にすっと文章が入ってこない」と思ったことはありませんか? そんなときにはどんなフォントを使っているか調べてみてください。

 雑誌を例にあげますと、レイアウトで「見せたり」「読ませたり」と、デザイナーが本領を発揮する場面ですから、読む人は写真やイラスト、見出し文字などデザインそのものをまず楽しみます。このデザインに関してはドロー、フォトレタッチ、レイアウトのソフトがデザイナーのよきパートナーになってくれるでしょう。
 そして本文をいざ読もうとしたときに、「詰め組」が気になったりしませんか? どういうルールで文字を詰めているのか、ということまでは考えないかもしれませんが、このWebコラム同様、気に入らない詰め組に出会ったことはありませんか? そんなときにはどんなフォントを使っているか調べてみてください。

 「文章が情報として頭の中に入ってこない」というのは、かなり深刻な問題で、速読をやったことのある方ならこの違いに気づくだろうと思います。
 美しいフォントというのは、ひとつひとつの文字のデザインの美しさに加えて、それらが単語になり、文章になったときの美しさや読みやすさを兼ね備えたとき、初めてその要件を満たすのです。

 現実的には、写植文字で組んでもPSフォントで組んでも、ほぼ完全に同じ組版ができるようになっています。ところが組み上がったものを比較してみたとき、たとえば漢字と仮名の組み合わせのバランス、黙読したときの理解の度合いに違いが生じるはずです。

 現実的には、写植文字で組んでもPSフォントで組んでも、ほぼ完全に同じ組版ができるようになっています。ところが組み上がったものを比較してみたとき、たとえば漢字と仮名の組み合わせのバランス、黙読したときの理解の度合いに違いが生じるはずです。

 現実的には、写植文字で組んでもPSフォントで組んでも、ほぼ完全に同じ組版ができるようになっています。ところが組み上がったものを比較してみたとき、たとえば漢字と仮名の組み合わせのバランス、黙読したときの理解の度合いに違いが生じるはずです。


 同じ文を三度も繰り返してすみません。
 プラットフォームやブラウザによってはこの3つの文は若干違うように表示されているはずです。スタイルシートを記述すればさらに細かい行間の設定などもできますが、これが可読性、視認性の違いの一例です。

●写研の文字の美しさの本質

 文字組版や使用書体に敏感な人はちょっとした違いで思考を停止させられてしまう、この「可読性」。
 編集者、デザイナーのみなさんには日本語の文字組版文化の将来がかかっています(^.^)。このやっかいな「可読性」についてこの機会にいろいろ考えてみてください。文字や印刷にかかわっている人やそうでない方も、手近な本や雑誌をめくって、どんなフォントが使われているのか、それは読みやすいかを気にして眺めてみると、新しい発見ができるのではないでしょうか。
 「読めればなんでもいい」という結論でもいいと思います。

 当社の社長はこのコラムをブラウザからパソコンでプリントアウトしたままだと読んでくれないので、写研のデータに置き換えて写研文字を使い組版したものに目を通してもらっています。なにせこれがいちばんきれいなんです。これが今日の結論(笑)。

 写研のプリプレスにかかわっている方と雑談したときに意気投合した話を最後に。

「写研の文字の美しさというのはフォントデザインの美しさというよりも、文字を組んだときのデザインの美しさにある」

 写研ファンの方にはこの意味がよくおわかりでしょう。そのあとには続きがあるんです。

「その文字を組んだときの美しさを支えるものはSAPCOLという日本語組版プログラムであり、SAPCOLと写研フォントが一体になったときにこそ、その美しさが最大限に発揮される」

 実際にやってみないとわかりませんが、写研のフォントをPSフォント化したときに、本当に美しい組版ができるかは日本語組版ソフトの品質やPS技術そのものの影響をモロに受けてしまうでしょう。SAPCOLではない組版ソフト上で組んだときの結果でフォントの価値を下げられてしまってはたまらないですから、写研の文字はPostScriptでフルDTPをする人にとっては縁遠い存在のままなのかもしれませんね。

 ただ、DTP派に傾いているデザイナー、編集者で写研のプリプレスを利用したい方のためのサービスや解決方法を、当社でも模索していますし、思ったよりも親和性があるようですので、このコラム読者の方にテスト出力という形でご協力をお願いすることもあるかと存じます。
 その話はまた機会をあらためてということで。

●これからのコラム

 予定よりもかなり発表が遅れてしまいました。
 この不況のなか、実はとても忙しくてWebを整備する時間が取れなくて大変でした。
 このコラムも1ヶ月に1回はと思っているのですが、次はいつになりますことやら。

 冒頭にありますように、出版印刷業界の一員として、写植の日常の現場で何が起きているのか、何を追求していったらいいのかを模索し、ネットワークを広げていくためのコラムです。
 読んでくださるみなさんのご意見、ご感想だけが唯一の励みです。
 ひとことでもいいですから読んだ足跡を残していってください。
 最後まで読んでくださってどうもありがとうございました。

(98/11/27発表)

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本コラム内容の無断引用、転載を禁止します。

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