出版印刷業界の一員として、写植の日常の現場で何が起きているのか、何を追求していったらいいのかを模索し、ネットワークを広げていくための不定期コラムです。
みなさまのご意見、ご感想をお寄せください。
写植の立場から見た最近の印刷事情
●イントロダクション
本コラムに興味を持ってくださってありがとうございます。Station S出版企画部の岡田と申します。これから発表していくコラムについては、社としての方針や立場を代弁するものではなく、あくまで岡田の個人としての立場に立脚した意見、感想であることをあらかじめおことわりしておきます。
まずは簡単な自己紹介を。
私は、Station Sの関連会社である有限会社関根で十数年写植オペレータをしていました。写研の電算写植組版に関してはひととおりの知識と技術を持っています。一方で芸能関係の情報誌(ミニコミ誌です)の編集長もしていまして、こちらは格安Windows
DTPの実験の場、そして出版全般にかかわるすべてについて勉強する格好の場なので今でも細々と発行を続けています。
今回、Station Sに出版企画部が設けられました。電算写植組版で得たノウハウを活かして、製版やDTP、出版物の企画編集までを視野に入れた新しい業務をする部署です。その部署で私は今、働いています。まず手始めにホームページと、関係者にお配りする簡単なパンフレットを作ることになりました。デザイン・編集・組版・印刷・Webパブリッシングまでひととおり内製し、それぞれの立場や苦労を理解しながら自社の業務に活かし、顧客のニーズに応えていくためのステップとしてこのコラムもお役に立てたらと考えています。
●DTP化による波と写植業者に残された選択
1990年代の前半、PostScriptの日本語版とMacDTPがじわじわと普及してきて、まずデザイナーがMacに飛びついたといわれています。選択肢がなかったせいもありますが、OSやソフトウェアのユーザインターフェイスの簡便さから、デザイナーがことごとくMacを買い、PhotoshopやIllustratorでページデザインを始めたのだそうです。
当時の私は一写植オペレータでしかありませんから、業界の動向そのものにあまり深く興味を持たないまま、「Illustratorで作ったページデザインの指定が増えたな」という程度の認識しか持っていませんでした。
MacDTPが浸透していくにつれ、写植業者は「このまま写植を続けていっていいのだろうか」という深刻な問題で頭を悩ますようになったといいます。写植のシステムを拡張していく業者もいれば、写植業は廃業し、Macのオペレーション業務を専門に行う業者、印刷会社に吸収されていく業者など、それぞれが生き残りのためになんらかの選択をしてきました。同じようにオペレータも新しい機械・OS・ソフトに対応できる人材しか生き残れなかったのです。
当社は写研のプリプレスシステムを選ぶことになりました。このあたりの事情についてはコラムを読み進めていく間にわかるようになると思いますので、今は説明を省かせていただきます。
●製版工程はどこへ行った
写植業者の生存競争は今でも続いているのですが、それにも増して今、大変なのは、製版業者さんでしょう。印刷物を作る段階で「文字版下」と「図版(写真やイラストや表など)」を集めて印刷用の版を作る工程を「製版」もしくは「集版」と言って、写植組版と同じく、高度な知識と技術を持ったオペレータがいないとできない工程でした。
ところが、DTP化の波が押し寄せてきて、製版の工程が専門業者の手ではなく、デザイナーや印刷会社、そして私たち写植プリプレス業者に吸収されようとしています。印刷にかかるコストが下がっていく一方で、そのなかで生き残っていくための最善の策を模索し、決めなければならないのです。
DTP化の波は、部外者にはブラックボックス化されていた印刷の工程を、編集・デザイン担当者や潜在的DTPユーザまで広く開示する役割を果たした一方で、それまでに培われた美しい組版ルールや美しい製版技術から掛け離れた出版物の増加を招いているのです。
●Windows DTPとPDF
写植の現場に立つ者から見たDTPの利点・欠点は追い追い触れていくことになるかと思いますが、98年になってQuarkXPressのWindows版発売という象徴的な出来事をきっかけにWindows
DTPがにわかに活気づいてきました。コンピュータ雑誌の特集記事やDTP専門誌からWindows DTPやPDFの記事量が毎号増えてきているように見受けられます。
オフィスに大量にあるWindowsマシンに蓄積された資料や情報をマルチユース化するために、Windows DTP、PDF、SGMLなどの知識や技術は欠かせません。
また潜在的Windows DTPユーザの存在も見逃すことはできません。かくいう私もその一人なのですが、SoHoレベルでPostScriptを使って一定以上の品質を持った印刷物をDTPで作ろうとすると初期投資がかなり必要となります。WindowsでTrueTypeフォントで手軽に安く作れるDTPを経験している人がつまずく点がここにあります。かといって今さらMac一式買う気にもなれないし、思ったようにWindow
DTPの出力環境が整っていないし……こういう悩みを持っている方はたくさんいると思います。
このようなWindows DTP派の人や、写研のフォントにこだわるデザイナーや編集者の人には当社のプリプレスシステムも選択肢のひとつになるでしょう。
すでに一部実用化は始まっていますが、お客様からいただいたEPSファイルの文字部分だけを写研のフォントにして高品位な印刷物に仕上げたり、校正用・あるいは配布用のための写植組版データのPDF化(この場合は文字そのものも画像となりますので字間の崩れや文字化けはありません)して出力、再利用のためにデータをSGML化したりと、時代のニーズに対応していけるだけのシステムとフローを取り揃えています。
これらの詳細については今後、Webでご紹介したりこのコラムで説明することになるかと思いますが、DTPと写植との親和性は思った以上にあるのです。当事者である私がそう思うのですから間違いありません。社にはMacもWindowsもあり、DTPに必要なものも一式揃っていますが、私が使っているのはWindowsマシンで、このWeb上での出版物はすべてWindowsマシンもしくは写研プリプレスシステムのデータを用いて作っています。
●マンガのDTPともいえる「ハヤテ」システム
当社が今、Webを通してプッシュしているのが写研のマンガデジタル編集システム「ハヤテ」です。業務紹介のコーナーで詳しく説明してありますが、何がすばらしいって、マンガ編集のDTP化が完成しているということです。
PostScript技術をもってすれば同じことができるわけですが、スクリーントーンをスキャンしたときのモアレに関してや、ネームの業界標準とされる写研のアンチック体が使えないことがネックとなって、Mac
DTPはことマンガに関してはなかなか採用されていないようです。
マンガ原稿をデスクトップコンピュータを使って画像と文字を入力、編集するためには高品位なシステムとノウハウが要求されることはお分かりかと思います。「ハヤテ」は高速に編集するために、スキャンした本画稿はOPIサーバに蓄えて、文字編集の場面では画稿は粗画像を表示させるというシステムを採用しています。ほかにもマンガの編集に特化したさまざまな機能が搭載されています。
このシステムは、写植の貼り込み、貼り直しなどで大変な作業をしているマンガ編集担当者には天恵ともいえるシステムです。すでに当社のシステムで何冊もマンガが世に出ていますが、写研の「ハヤテ」を取り入れ、実用化している写植企業は都内でもまだ数社しかありません。
この最新システムを使えば今まで手作業でしていた人件費や時間がかなり節約できるはずですし、いったんフローが決まれば、本来の仕事である、「よりよい本を作るための企画や編集」のためにたくさんの時間を使えるようになるということがメリットです。コストを下げ、品質を上げることは間違いありません。
既存業者とのおつきあいもあることですから、今すぐに移行できないかもしれませんが、このコラムと出会ったことで、「ハヤテ」のシステムをより多くの人に知って、採用を検討してみてくだされば私としても本望です。受け入れ態勢は万全に整っています。
●これからのコラム
今回は第1回ということで、印刷業界の動きのなかから、当社および私自身と関連することをざっとながめてみました。
こういうコラムを書いて発表することがどれほどの意味があるのかはよくわかりませんが、同業者、関連業の方に向けて業界活性化のための材料になっていることを願っています。
このコラムの今後の予定ですが、まだ次の話題は決めていません。
Windows DTPと写研プリプレスを利用したアウトソーシング編集出力のひとつの提案、文字組版を台無しにした張本人は誰か、オペレータが喜ぶ組指定・嫌がる組指定、などのなかから、写植の現場および当社(および私自身)に直面したテーマを選んで発表していきたいと思います。
それでも、なによりも励みになるのはこの文章を読んでくださるみなさんのお便りです。ご意見、感想、叱咤、激励、誤植の指摘、新しい話題の提供など、どんな些細なことでもいいのでメールを下されば幸いです。
最後まで読んでくださってどうもありがとうございました。
(98/10/12発表)
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